天丹法概略

 
 ここでは、仙道の修行法のうち天丹法と呼ばれるものについての概略を説明していきます
 

感気

 
 仙道をはじめるものは、この世界に満ちている不思議な存在である「気」というものを感じる事から始める事になります。まずは最初、手と手を擦り合わせてください。ある程度、手のひらが熱を持ってきたら手を5〜10cmほど離して向かい合わせてください。手の間に何かを感じることが出来るでしょうか?。最低限でも、「熱」を感じる事は出来ると思います。その熱の感覚を磨いていくと、やがて手のひらに微妙な「流れ」や「圧力感」、「静電気」みたいなものが感じられるようになると思います。仙道ではこれを、気を感じる「感気」の段階といいます。

いろんなものから気を感じる

 
 手の間にいつも気を感じることが出来たら、周りにある様々なものに手をかざして、そこから出ている気の感覚がどんなものかを調べていきましょう。ものによって微かなぼうっとした圧力感や、微風が吹いてくるような感じ、何かが流れ込んでくるような感じなど、様々な感覚がわかると思います。ただ、手をかざした時に手の気が吸い取られるような感じがしたり、嫌な感じが伝わってくるような場合は、手をかざすのはすぐやめましょう。

全身で気を感じる

 
 手のひらで、ものの気が理解できるようになってきたら、次は手のひらとは他の部位で気を感じれるようにしていきます。方法としては、手で気を感じる時と同じように、自分が気を感じようとする部位に意識を向け、その上で対象に意識をかけることです。やがて、体に手で感じた時と同じような様々な感覚が現れてくるでしょう。

気を蓄える

 
 全身で気が理解できるようになったら、次に小周天という段階に入るために、体に精気を蓄えます。そのためには、まず食養法で精のつく食物を摂り、導引でその精気を全身に流します。日々、適度な運動を行い、よく寝て、何事にも動せず、精を漏らさず、体の生命エネルギーを日々高めます。

小周天1

 
 小周天とは体の正中心のルートの経絡に沿って気を流し、自分の気を強めていく方法です。前段階で体に生命エネルギーが溢れたのを感じだしたら、長時間一人きりになれる静かな場所で座って瞑目します。そして、武息という呼吸法を行います(息を吸うときに腹を膨らませながら肛門を締め上げる。息を止め腹と肛門をそのままにしておいて、数秒後にゆっくり息をはきながら腹を元に戻し肛門を緩めていく)。この呼吸法を行っていくと、やがて下腹にとても暖かい、あるいは熱いものを感じてくると思います。これを「陽気」と言います。体に満ちた生命エネルギー「精」が変化して「気」に変わったのです。これを古い仙道用語では「煉精化気」と呼びます。その下腹に感じた陽気を丹田といわれる、臍下にあるポイントに集めます。この後、この陽気を体の中心線に沿って性器のつけねを通し、会陰という性器のつけねと肛門の中間のポイントまで持っていきます。途中、性器を通す時に熱の勢いが強いと精が漏れそうになる事がありますが、その場合は肛門を締め上げて精を戻して必ず漏らさないようにしてください。ここで、精を漏らしてしまうと、前の段階からやり直しです。会陰まで持っていった気は、熱の勢いが弱くなっていることが多いので、そこでいったん意識を止めて、武息を行い、さらに陽気を送り込んで会陰での陽気を強くしてください。その次に肛門を通し、尾蹄骨まで持っていきます。尾蹄骨でも、さらに陽気を強くします。尾蹄骨まで持っていった気は、さらに背骨を通して、頭頂まで上げます。最初の頃は途中のポイントで、何度も陽気が消えてしまうと思いますが、その場合は、武息を行い陽気を発生させて、ルートに沿って陽気をどんどん送り込んでください。やがて頭頂まで気をあげると、そこで気は単に熱いだけのものからすがすがしいものに変化します。そして、頭頂が薄い気のカサを被ったように気持ちよくウットリとなります。その段階まで至ったら、気を引き降ろします。眉間、喉、鎖骨の間、胸のくぼみといったポイントを通し、元の丹田まで戻してください。

小周天2

 
 小周天のルートを一回通すことが出来たら、後は日々座って小周天を行い、陽気を強くしていきます。やがて、陽気はただの皮膚の上を這う線状のものから、皮膚の中をとおりだし、棒状の強いものに変わってきます。

気を全身へと巡らす

 
 小周天で日々気を強めていくと、やがて陽気は正中心のルートだけでなく、体中を流れるようになり、手足の末端まで暖かい気持ちよい気で満たされるようになります。ここまで至れば、体中に気が流れるようになったといえるでしょう。これを高藤氏はその著作の中で「全身周天」の段階と呼んでいます。そして、強くなった気はやがて体の外へと流れ出し、自分の周りにある種のふわふわした濃密な気の場を作り出します。この段階まで行くと、夜、自分の周りを見るとぼんやりとした気の光に包まれているように見えます。これを伝統的な仙道用語では「虚室生白」と呼んでいます。

小薬の発生

 
 この段階に至るまでに、訓練を行ってる人は瞑想中に鋭い光の点を無数に見ることになります。この光の点は追っかければ消え、追っかけるのをやめると勝手に現れるという制御のきかないものです。しかし、やがて、扱いになれてくると自分の思ったところにこの光を発生させることが出来るようになります。そして、気の扱いに慣れ、意識で気を濃縮させると、その中心にもこの鋭い光の点を見ることが出来るようになります。この光が見える気の固まりをさらに気を強めていくと、小薬というものが作れるといわれます。

意識の制御訓練

 
 ここまで至った人は人間の意識について徹底的に識る事と制御する事を行わないとなりません。さもないと、この先の段階のクンダリニーを扱うようになると、心身に手痛いダメージを受けてしまうことになります。喜怒哀楽などの感情を自由に出したり抑えたり、暑い涼しいなどの環境の感じ方を制御すること。色による場の変化などの感覚を掴む事、また様々な情景や象徴などをイメージしてそれにより、意識に自由に変化を起こせるようにしておく。心理学などを通して、人間の意識の構造を勉強しておく。ここで、人間の意識の奥深くに潜む未制御のコンプレックスは出来る限り取り除いておかないとなりません。また、人間の筋肉や内臓などの基本的な構造を生理学などで勉強しておく。栄養学を勉強する。こういった事を満たしてから次の段階へ進んでください。

大地の気の吸い上げ

 
 次のクンダリニーを扱う段階へ至る前に、大地の奥深くに意識をかけて、そこに潜む膨大な気の固まりを引き上げるイメージの訓練を行います。これはユング心理学的に言うと、人間の奥深くに潜む、無意識のエネルギーへとパイプを通す元型的な訓練といえます。象徴的な大地の竜(蛇)の扱いをはじめる方法ともいえるでしょう。

クンダリニーの発動

 
 この段階まで至ったら、さらに気を強くする訓練を行うか、あるいはヨガの特殊な訓練を併用すると、下腹の特に尾蹄骨付近からとても強い気の塊が背骨に沿って体の中心を駆け上り、頭を打つ現象が起こります。これをクンダリニーの発動といいます。クンダリニーとは人間という生命存在を根源から支えている特別に強力な気のエネルギーです。この段階まで至ると扱う気の量が膨大なものになり、明らかに今までの修行と一線を画す事になります。しかし、クンダリニーが上がったままになると、頭に気が詰まって膨れあがるような感じになり、そのままにしておくと心身にダメージを与えてしまいます。私の場合は、頭に気がつまりイライラし呼吸も困難になる現象に見舞われました。そのため、この段階まで至ったらすぐに頭から上に気を出す訓練を行います。上手く頭に溜まった気を頭頂から出すことが出来るようになると、その気は天上へと向けて柱のように立ち上がります。ただ、しばらくは頭頂の中心(両耳の上をまっすぐそっていった頭頂の中心上)が少し盛り上がり熱を持って、押すと少し痛みを持つ状態になります。また、頭頂の中心線にそって少し膨れ、その割れ目にそって気の感覚が呼吸と共に出たり入ったりという状態になります。ただ、これらの現象は行が進んでいくと、少しずつ収まってきます。

天地との同一、天地人を繋ぐ柱。

 
 クンダリニーの体験を経て、大地から気を吸い上げ、気が天上へと向けて立った人はやがて天地の気が勝手に身体に入り込むようになります。この段階まで至ると、天、人、地を結ぶ一本の柱が作られます。叡智の蛇が無意識から人間の意識を通り抜け、その知識を意識にもたらします。ここまで至ると、人は集合的無意識(根源の気の世界)へとしっかりと根を下ろす事になり、無意識下での様々な存在との交流が活発になります。また、武術を行ってる人はよく聞くことですが、これは気を扱うというものに留まらず、実際の肉体感覚にも一本の柱みたいなものが生まれるのです。

この後の訓練、大薬発生から。

 
 この先の段階は作者も、まだその段階まで至っておらず、本から知る範囲だけの話ですので、その点はご了承ください。クンダリニーが発動し、なおもその先を目指す人は、まだ下腹に意識をかけ気を強めていきます。やがて、下腹にとても強い気の固まり「大薬」という、とても高濃度な気エネルギーの固まりが出来ます。そこまで至ると、心身の生命=熱エネルギーがとても高度な段階に至り、人間の身体が生命エネルギーを漏らさない状況へと勝手に変化します。具体的には男性は性器が引っ込み、精が漏れないようになる。これを「馬陰蔵相」といいます。女性は月経が無くなり乳房が引っ込みます。これを「赤竜を切る」状態と言います。そして、更に先の段階まで進み、意識が動かされず決して精気が漏れなくなった状態は(仮の)「漏尽通」の状態と呼ばれます。

仙胎と養胎

 
 発生した大薬は、「陽神」と呼ばれる我々の人体とは別のもう一つの精神から成り立つ身体を作るための源にします。そのため、この大薬が下腹に出来上がることを伝統的仙道用語では、女性が胎児を身ごもることに見立てて「仙胎」が出来上がると称します。この仙胎が出来上がったら、仙道修行はそれを育てる「養胎」という段階に入ります。この仙胎は出来上がったばかりの段階では、気のエネルギーとしてはとても強いものですが、しかし、物質段階にあるものから比べれば、まだまだとても弱いものであるために、人が何らかのショックを受けただけで消え去ってしまいます。ちょっとした情動の乱れでも、この仙胎は消え去ってしまうので、養胎を行う場合、しばらく修行者は人間社会を離れ、心を動かされない環境に篭る方が良いでしょう。あるいは漏尽通の状態に至っており、意識の訓練が完全に達成され、いかなる事があっても心を乱されない状況にある人ならば人間社会でも養胎は可能でしょう。

養胎による変化

 
 仙胎は下腹でしばらく自分の意識をかけてもう一つの精神体として育てていきます。この養胎の段階では、大薬の強い気の作用により様々な光の気のイメージや不思議な経験を経ることになります。人の意識を構造しているものが象徴的に様々な色の光に見え動いたり(玉蕊金華、三花聚頂、五気朝元、赤蛇帰神)、様々な神々や仏があらわれて行を励ましに来たり、かと思えば地獄の鬼や魔物が現れて行を邪魔しに来たりします。これらは全て無意識に潜んでいたもの(ユング心理学的にいえば元型)が、強い気の作用により、意識上に現れた偽りのイメージです。これらは全て無心でやりすごさなければいけません。さもないと、そういった意識の世界に仙胎を持っていかれて、行はやり直しになります。また、仙胎により、物質的な身体にも変化が起こります。全ての後天的な気の流れは止まり、先天的な気のみが経絡を流れるようになります。内臓の動きは止まり、呼吸はほぼ止まり(これを真息といいます)食物をほとんど摂らなくても生きていけるようになると言います。完全な排毒が行われ本人の心身を構成するのに必要な気のみが残ります。やがて、下腹からこみ上げる程になった強い気がヨガで言う気脈(ナディ)に沿って全身にくまなくシャワーのように降り注ぐ現象(天花乱墜)を経ると次の段階に達します。

陽神誕生

 
 ここまでの養胎の段階を経た仙胎は、強く凝り固まった精神体とも言うべき陽神に育ちます。その陽神は機を見て、意識を陽神に移した上で下腹から胸に引き上げ、更に頭頂から出します。光の膜に包まれ、陽神がはじめて外界に産まれることとなります。この際、陽神は外界でさらに様々なイメージを見ることになるかもしれませんが、そういったものは完全に無視してください。外界に出産した陽神は、何回も出し入れの訓練を行い、次には少し遠くまで歩かせ、やがて遠くまで歩かせるなど、更に訓練の年月を経ます。そして陽神は自分の身体と同じような感覚を持つ精神体まで育つことになります。

煉神還虚

 
 ここまで陽神が育ったら、次はその陽神を自らの身体に重ね合わせます。この段階まで至っていると、もともと、身体は強い熱エネルギーを保ち、とても純粋な状態にあると思います。そして、そのまま、陽神と意識を同じくする行を経た自分の意識は虚の状態へと還る事になります。これを「煉神還虚」を達成したといいます。この段階まで至り、完全に「個」と「全」との境界を自由に制御できるようになったものは、完全な漏尽通の状態を達したとされます。
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