コンプレックスと人格


 ここでは、ユング心理学で言うコンプレックスについて紹介していきましょう。
 
 現在、コンプレックスという言葉はよく「劣等感」という意味で用いられることが多いものです。しかし、ユング心理学では、この言葉は本来、違う意味で用いられるものでした。いわゆる一般に言われる劣等感を意味するものは、ユング心理学では厳密にはコンプレックスの中でも「劣等コンプレックス」と呼ばれ区別されるものです。
 
 元々、コンプレックスとは「複合体」を意味するドイツ語の言葉でした。人生の様々な場面で人は、喜んだり怒ったりなど、心理的に感情(情動)を動揺されるような場面に会う事が多々あります。そういった出来事に出会った場合、人間はその情動の強さに応じて、その場面に関係する状況や自らの思考、感情などの様々な要因を無意識の内に複合的な、ある一つの纏まりとして記憶します。その記憶は、情動の強さに応じて当人の意識に刻み込まれ、後々の当人の行動や考え方にまで、影響を及ぼすようになります。こういった、情動によって人の無意識の中に出来上がった、ある纏まり、エネルギー体、複合体というものが、ユング心理学で「コンプレックス」と呼ばれるものです。
 
 人は様々な場面で様々な情動を発生させます。コンプレックスというと、劣等コンプレックスが有名になったために、一般には悪いものと考えられがちですが、実際は喜びや怒り、悲しみ、愛着や羨望、好きや嫌いという思いなど、様々な要因によって発生するコンプレックス(複合体)があるのです。そして意識しなくとも、人の無意識の中は常にそういった、いろいろな「思い」の複合体が活動しています。こういった様々なコンプレックスが無意識にあるからこそ、人は外界に対して、その人独自の反応をするのです。そのため、このコンプレックスは、その人独自の人格を形成する源といえるでしょう。そして、このコンプレックス、ある一種のエネルギー体ともいえるものはまた、人間が行動を起こす原動力にもなるものなのです。
 
 例えば、ある人にとって何かが好きという強いコンプレックスがあるならば、人はその好きなものを求めて人生を形成していくでしょうし、何かが嫌いと思うのならば、その嫌いなものから遠ざかるように人生を形成していくでしょう。そしてコンプレックスは、その原因となった出来事を当人が忘れ去ったと思っても、それが真の意味で解消されない限りは、無意識の内側から、知らず知らず当人の行動や考え方に影響を及ぼし、その人生さえも変えていくものなのです。
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