「魔術」の歴史

 
表紙絵(アエメト)

 前ページでは「魔術」の分類について色々と解説してみた。学徒はIMNの扱う「魔術」というものについて、よりイメージや理解を進めることができたであろうか?。次に、ここではそのIMNの扱う「魔術」というものが西欧の歴史上で、どのような流れを経て現代に至ったものなのかを紹介してみよう。
 人間はその発祥より目に見えない様々な霊的存在、あるいは神々と呼ばれるものと交流してきた。それらから得た知識はやがて言葉や文字の発達と共に纏められ宗教を形成し、古代文明を起こす力となる。紀元前には多くの古代文明が、様々な神々や霊的存在からもたらされた知識により、高度な霊的・哲学的文化を誇っていた。その中でもゾロアスター教と呼ばれる宗教における神官たちは「magi(マギ)」と呼ばれ、その自然に対する深遠な知識と哲学「magic」を持って崇拝を受けることになる。
 
 しかし、そんな古代の宗教と文明の繁栄にも陰りが指す。紀元後、キリスト教がローマ帝国の国教となったのだ。本来のイエスの教えを勘違いしたキリスト教徒は、「自分達の信じる唯一なる主以外の神は全て悪である」との独善的な考えの下、様々な異教を弾圧していく事になる。異教の神々よりもたらされた知識を元にした文化は、ローマ帝国の大きな軍事力を背景としたキリスト教の弾圧に、ヨーロッパを中心として衰退し闇に消えていくことになる。
 長い間、ヨーロッパのキリスト教圏内においては、知の文化はキリスト教の枠組みの中でしか、その発展を許されなかった。そんな中でも、ごく少数だが、古代よりの異教の知識を受け継ぎ、その技術を使うもの達もいた。しかし、キリスト教徒は、自らの信仰する神以外の神(異教の神々)は悪しきもの=すなわち「悪魔」と考えた。そして、その悪魔(異教の神々)の力を借りて使う不思議なわざを「魔術」という言葉で呼び、「魔術」は邪悪で汚らわしい滅ぼすべきものという概念を広めていく。
 
 「魔術」を異教の神々の力によって現された不思議なわざとするならば、それに対して、キリスト教を信仰するものや、聖者等が、キリスト教の主の名の下に現した不思議なわざは「奇跡」と呼ばれ、同じ現象であったとしても、キリスト教の神によるものならば「尊い」ものとして区別されることになる。
 
 異教の知識を受け継ぐものたちの中には、自然の薬草などを用いたりして病気を癒したり、不思議な方法で悪運を退けたりするなどの技術を扱うものたちもいた。こういった人々の役に立つ魔術は「白魔術」と呼ばれ、その技術を使うものたちは尊敬される事もあった。逆に不思議なわざで人を苦しめたりするもの達も現れ、そういったもの達の扱う魔術は「黒魔術」と呼ばれるようになる。「白魔術」「黒魔術」の概念の誕生である。しかし、「白魔術」とされるものでも、キリスト教の権威者が気に入らなければ、全て「魔術」として弾圧されることも多かった
 ヨーロッパにおいてキリスト教の支配的な時代は約1000年も続いたが、やがて長いキリスト教の支配の夜にも、薄明が訪れることとなる。14・15世紀のルネサンス(古典文化復興運動)の到来である。古代に発展した様々な宗教を源とした多様な知識文化は、実はキリスト教の弾圧を逃れ、アラブなどのキリスト教圏外へ移り、その地で大きく発展していたのだ。長く続いたキリスト教の宗教的弾圧に「知」の限界を感じたルネサンスの知識人達は、異教の進んだ知識、数学や物理学、化学、天文学などを見つけだし、積極的にヨーロッパの文化に再吸収する事を行う。そして、現代の「科学」へ続く学問を発達させていったのだ。
 
 しかし、これらの発展的な「知」の学問は同時にキリスト教の大きな反発も呼び起こすことになる。先にも記したがキリスト教徒にとってはキリスト教の神や権威によらない考え方や技術、学問はこれ全て悪魔のわざ=魔術と考える風潮があった。その為、この頃発展しだした数学や物理学、化学、天文学などの科学的学問は総じて「魔術」と考えられ、特にキリスト教の世界を揺るがすような新しい発見には徹底的な弾圧が行われる事となる。地動説を唱えたガリレオに対する迫害など有名な例であろう。
 
 長い時代に渡って、キリスト教と科学の対立が続くことになるが、やがて、多くの民間のキリスト教徒にさえも科学の技術こそが現実的な力を持つ学問であると認識されるようになり、キリスト教の宗教的圧力は力を無くす事となる。また、魔術と同分野とみなされがちだった科学は合理的考え方、反証主義などにより「魔術」の分野とも袂を分かつ事になっていく。
 科学が飛躍的な発展を遂げた18世紀から19世紀の時代。魔術というものは時代遅れの迷信として退けられていくかのように思われた。しかし、実際は逆だったのである。キリスト教の宗教的弾圧の恐怖から逃れた人々の多くは、科学による物質文明を享受しつつも、その精神的希望を魔術やオカルトといった分野に求めていく事になる。
 
 そんな魔術に惹かれる人々の中には、魔術の内に古代からの叡智を求めようとするものもいた。それらの研究者達は、様々な古くより伝わる文献を踏破し、魔術と呼ばれる分野の中に「霊的な意識を制御する知識」を探し当てる事になる。この秘密を研究する流れは、19世紀の末にイギリスに一つの団体を生み出すこととなった。
 
 それが、このIMNで中心的に扱う「黄金の夜明け」団と呼ばれる団体である。この団体で大きく発展した霊的な意識を制御する体系をIMNでは「魔術」と呼び、それらを求める人に学習へのきっかけとなる為の知識の紹介や解説、IMNとしての研究の発表を行っていく事になる。
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