黄金の夜明け団について。


 ここまで学徒には、西欧神秘伝統の歴史を駆け足で学習してきてもらった。これまでに見て来た様々な人物や団体などによって、西欧に伝わる神秘伝統は形作られてきたのである。そして、それらを受け継ぎ1888年イギリスはロンドンに「黄金の夜明け」団という西欧神秘伝統研究団体が生まれることとなる。ここからはしばらく、この黄金の夜明け団についての様々な知識を紹介していく事になるが、その前に簡単にその団体についての概略を解説しておこう。
 
 「黄金の夜明け」団とは正式名称をThe Order of the Golden Dawn(以後、GD団と略す)という。1888年、イギリスはロンドンで同じ西洋神秘伝統を研究していた仲間同士のウェストコット、メイザース、ウッドマンの3人が集まって、西欧神秘伝統、そして「魔術」と呼ばれるものを志願者に教育、また組織的に研究活動を行うことを目的として生まれた秘密結社である。
 
 この組織は、西欧神秘伝統史上において、革新的な功績を果たした結社として有名であり、西欧神秘伝統を語るものならば、この結社の存在を抜きに語ることは出来ないであろう。
 
 GD団の前にも、西欧の秘教伝統の研究的活動を目的とした結社は幾つもあったが、このGD団という団体が今でも特別視されるのは、GD団が生まれるまでは様々な場所にバラバラにしか伝わっていなかった西欧の秘教知識を、カバラと呼ばれる秘教学問の「生命の樹」といわれる図形のもとに体系的に纏め上げ、この方面の初心者でも一つ一つステップを踏んで、理解しやすく学習する事が出来るようにした点にあるといわれる。
 
 また、もう一つこの団体が特別視される理由として、この団に入団した団員の一人であったイスラエル・リガルディーという人物によって、この団体のそのほとんどの秘密教義が、団の許可なく纏めて商業出版されてしまったことにある。当の人物リガルディーとしては、当時の彼の周りにいた団の上層部があまりに無能に見えた為、GD団の価値ある秘密の知識を歴史の闇に消失してしまわないようにする為の義憤にかられた行為だったわけだが、これは、西洋秘教を秘密に伝授・研究する事を目的とするこの団体としては、その存在意義を否定される許しがたい裏切り行為であった。その為もあって、後にこの団体は消滅してしまい、またリガルディー自身も関係者達から苛烈な攻撃を受け、その後しばらく西洋神秘伝統界から身を引くことになってしまう。
 
 しかし、後の時代の我々、在野の研究者としては、一つの魔術結社がその入団者を一人前の魔術師にまで育てる為の、ほとんどのカリキュラムが簡単に入手・研究できるようになったという意味で、これは図り知れない恩恵を受ける事が出来たものだったといえよう。こういった理由により、現在、西欧神秘伝統的「魔術」を研究する学徒にとっては、この黄金の夜明け団についての知識はとても重要なものとなっている。当HPでも、これからその様々な知識を紹介・解説していくことになる。
 以上、GD団の概略について記してきたが、ここで学徒には、このGD団について、よく注意しておくべき点も伝えておこう。神秘伝統を志向する現代の学徒はこういった秘密の知識を研究する結社というと、特別な能力を持つ人によって作られた、崇高なものを想像するかも知れない。しかし、その実態は創立者のウェストコットの意向で、オカルト的な事が好きだったイギリスの中産階級の人々が集まって出来た、いわば「同好会」みたいなものだったとされているのだ。ただし、1892年以降はこれまた創立者の一人であるメイザースによって、GD団の中にあった第2の団「ルビーの薔薇と金の十字架団」は、本格的な秘教研究結社に改造されたが、それでも団のメンバーの多くはやはり、団を一つの「趣味」と見なしていた。また、メンバーもGD団のその同好会的性質上、バラエティーに富み、イギリスの中産階級の紳士淑女から、英国薔薇十字協会の最高指導者、軍人、人気女優、果てはインド太守までも、団の名簿に名を連ねていたといわれる。
 
 ただ、この様な、それぞれに思想を持った人が寄り集まってする活動は、長続きしないのが現実で、GD団でもその歴史上、様々なトラブル、分裂、果ては大喧嘩や喧嘩別れを引き起こしている。この争いについては秘教結社という事で、崇高な理念からの意見の衝突を現代の我々は期待するかも知れないが、現実は、GD研究家ハウによると「小学生同士の喧嘩」レベルだったらしい。GD団のこの変な伝統は、後々までも続いているようで、GD団に影響を受けた現代に至るまでの西欧の秘教伝統の学徒や団体も、様々な事で喧嘩を起こしたりなどの醜聞が絶えない。近いところでは、GD団の名前を商標として登録、同じようにGD団の名前を使っていた別の団に、その名前を使わせなくしてしまった団まである。
 
 基本的に人は、こういった思想的なものをあまり真剣に理想化・追求すると、自分の考えが絶対だと思うらしく、人を攻撃する事が多くなる。これは心理学でいう「シャドウ」に近く、自分が何か理想を掲げると、人間はやはりその理想と遠いところを我が身に見出してしまう。そして、自分の中に潜む、その自分の認めたくないものと同じものを持つ他者に出会った場合、人はその自分の認めたくないものを他者に投影、その投影された他者が悪いものだと思い込んで、相手を攻撃する原理である。
 
 この過去のGD団や学徒達の過ちからも、これらのように思想的にも成りうるものを研究する者には、「真理」とは「人の数だけある」ものであり、自分が正しい事だと思っても、それが他者にとっては正しくなかったりするという事は、幾らでもある事を覚えておいて欲しい。そして、私はこのHPを見る人には、例え意見が違ってもお互いを認め合い、協力し合って、自分を高めていく事をモットーとして欲しい。人間は一人一人の力は微々たるものであるが、協力して何かを為す場合、その力は計り知れないものになるのだから。
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